ポストエディットのガイドラインとは、機械翻訳後の品質をきめるもの

ポストエディットの品質

ポストエディットのガイドラインって、聞いたことありますか?

これは、ポストエディットで修正する項目を記したものです。

機械翻訳の品質は、機械翻訳エンジンの性能とポストエディットで決まります。

そしてポストエディットには、品質によってレベルが何段階かあります。ポストエディットで何をするか、品質ごとにはっきりしておかないと、最終的な品質にばらつきがでてしまいます。

とくに機械翻訳の精度アップが話題になっている現在、極端な例ですが、「機械翻訳だから、どんな翻訳もすべて良い品質で安くなるよね!ポストエディットなんて、簡単なんだよね。」なんて誤解されることもあるかもしれません。

そこできちんと品質について合意がないと、翻訳が仕上がってから、「ええーっ」ってことになっちゃいますよね。翻訳を依頼した側とトラブルになる可能性もあります。

そこで、機械翻訳+ポストエディットでどういった品質のものができるか、最初にクライアント側と共有しておくことが大事になってきます。そしてポストエディットで求められること、ポストエディット中に行う修正項目をポストエディターに伝えるおくことが必要になります。

このために作成するのが「ポストエディットのガイドライン」

ポストエディットのガイドラインがあれば、求められる品質と最後に出来上がる品質にブレがなくなり、クライアントに満足してもらえる商品が作れます。

翻訳とポストエディットの品質について

まずは、少し脱線しちゃいますが、ここで改めて「品質」というものについて考えてみましょう。

たとえば、吉野家の牛丼。

吉野家の牛丼は「早い」「安い」「うまい」と三拍子そろっています。ですが、その「うまい」という品質は「あの値段の割にはオイシイよね」という前提でなりたっています。

だれも吉野家で松坂牛がでてくることを期待していません。

そんな「品質」は、吉野家にくるお客さんに求められていないのです。つまり「よい品質」って、必ずしも「高品質」をさすわけではないんですね。

 

「そんなの当たり前じゃないか」とつっこまれてしまいまそうですが^^;

ですが、普通の商品と違って、翻訳は1個1個オーダーメイドの商品です。なので、その都度、品質をきめていかなくてはいけません。そのときに、翻訳を受注する側は、つい「一番良い品質」=「ベストな品質」だと思い込んでしまう気がします。

クライアントが望んでいるのは、本当はそこまでの品質ではない場合もあります。無理に一番良い品質で出しても、実は、それほど喜ばれていない可能性もあるんです。

 

この当たり前ながら大事な品質の話は、以前お世話になった翻訳会社の社長がおっしゃっていました。

翻訳を制作している側にいると、勝手に「高品質」がベストだと思ってしまいがちです。ですが社長は「みんなそう思いがちだけど、でもそれってお客さんが求めている品質とは限らないよね。」とおっしゃっていました。

そこで、私は、ハッとしました。

語弊がある言い方ですが、「一番良い品質」=「ベストな品質」と考えると、実行するのは大変ですが、ある意味、楽(ラク)です。逆にクライアントが求める品質レベルを察知して、事前にこちらで提供できるものを相手に理解してもらうことは、面倒です。

ですが、この面倒な手間暇をかけないと、吉野家が松坂牛をだすように、価格に見合わない、それほど望まれてもいないものを提供することになってしまいます。続けていけば見えない制作コストは上がっていき、自分たちの首をしめることにつながっていってしまいます。

考え方自体はシンプルです。でも、私はちゃんと行動にはうつせてはいないことを感じて反省しました。

 

機械翻訳の時代になると、これまで以上にこの「求められている品質を見極める」という部分が大事になってくると思います。

人手翻訳の場合でも、品質レベルによって翻訳のプロセスが変わり、最終成果物が変わってきますが、機械翻訳の場合には、この差がさらに大きくなります。

ライトエディットかポストエディットかでは、できあがった翻訳に、すぐわかるほど差があります。

一般的に社内文書などはライトエディットで良いかもしれませんが、外部に出す正式な文書については、フルエディットのレベルが求められます。文書によっては、その中間のレベルが求められます。

どの品質レベルを選択するかで、ポストエディットの負担は大きく変わってきます。

クライアントが求める「良い品質」にあわせて品質レベルを選択し、その品質レベルで出来上がる翻訳はどういったものなのか、最初にしっかりとクライアント側と共有しておく。このプロセスが、これまで以上に大事になってくるのではないでしょうか。

 

実際の作業時には、この品質レベルをポストエディターたちと共有していく必要があります。

この品質レベルの共有と落とし込みに役立つのが、ポストエディットのガイドラインです。

TAUSのガイドライン

ポストエディットのガイドラインを考えるにあたり、各品質レベルごとに、どういった品質が求められるのかを知る必要があります。

参考として、TAUSのガイドラインをご紹介します。

 

TAUS、というのは翻訳の国際団体です。機械翻訳を含め最新のテクノロジーを推進し、翻訳業界に大きな影響力をもっています。

このTAUSのサイトに、「機械翻訳後編集のガイドライン」があります。各社ごと、案件ごとの詳細なポストエディットのガイドラインを作成する際に参考になります。

 

TAUSのガイドラインでは、前提条件として、原文の品質が高いこと、ポストエディターがトレーニングを受けていること、クライアントと品質に関する同意ができていること、などがあげられています。

また最終的な翻訳品質は、ポストエディット以外にも、機械翻訳の結果にも左右されます。たとえば、機械翻訳による翻訳が高品質であれば、ライトエディットであっても、十分な品質の翻訳となります。逆に機械翻訳による翻訳があまりにひどいと、時間をかけてフルエディットを行っても、良い品質の翻訳にすることはできません。

そのため、TAUSではライトエディットの品質レベル、とかフルエディットの品質レベル、という定義を避け、「十分な水準(good enough)」と「人間による翻訳と同水準の品質を実現するためのガイドライン(Guidelines for achieving quality similar or equal to human translation)」の2種類に分けています。

この2つの品質レベルで求められる内容について、TAUSは次のように提唱しています。

【十分な水準】

  • 意味的に正しい翻訳を目標とします。
  • 間違って追加されたり、欠落している情報がないことを確認します。
  • 不快感を与える内容や、不適切あるいは文化的に受け入れられない内容を編集します。
  • 可能な限り機械翻訳の生出力データを使用します。
  • 綴りに関しては基本的な規則を適用します。
  • 単なる文体上の修正は、行う必要はありません。
  • より自然な流れの文章にすることのみを目的として、文の構造を変更する必要はありません。

 

【人間による翻訳と同水準の品質を実現するレベル】

  • 文法的、構文的および意味的に正しい翻訳を目標とします。
  • 重要な用語が正確に翻訳されており、翻訳されていない語句が顧客の「翻訳不要語句」リストに挙げられていることを確認します。
  • 間違って追加されたり、欠落したりしている情報がないことを確認します。
  • 不快感を与える内容や、不適切あるいは文化的に受け入れられない内容を編集します。
  • 可能な限り機械翻訳の生出力データを使用します。
  • 綴り、句読法や禁則処理に関しては基本的な規則を適用します。
  • 書式設定が正しいことを確認します。

参照・引用元:TAUS / 機械翻訳後編集のガイドライン

 

【十分な品質レベル】では、「単なる文体上の修正は、行う必要はありません。」「文の構造を変更する必要はありません。」とあり、あまりきちんとした文章にする必要はないことが明記されています。

【人間による翻訳と同水準の品質を実現するレベル】では、用語や書式についても正しさを求めています。ただ、「可能な限り機械翻訳の生出力データを使用します。」とあり、たとえば不必要に語順を変えたりすることまで求めていないように解釈できます。

このガイドラインを基にして、具体的なポストエディットのガイドラインを作っていくことができます。

ケースバイケースですが、「十分な水準」=ライトエディットのレベル、「人間による翻訳と同水準の品質を実現するレベル」=ポストエディットのレベル、と定義してしまうほうが、クライアントと作業者に理解してもらいやすく、実用的な気がします。

 

全レベルに共通していれるべき項目としては「誤訳がないか」「翻訳漏れがないか」といった点です。

フルエディットについては、さらに用語の統一や、全角・半角の使い方、書式の統一などに関する項目が必要です。こういった点は、ライトエディットでは不要です。

また、ライトエディットとポストエディットの間にもうひとつ品質レベルを作るのであれば、その部分の項目もきめる必要もあります。ここの部分をどうフルエディットと分けていくかも大事なポイントですよね。

まとめ:ポストエディットのガイドライン

今回はポストエディットのガイドラインについて紹介しました。

最初に、あらためて翻訳の品質について、書きました。翻訳は1点1点のオーダーメイド商品。品質レベルはクライアントや案件によって変えていく必要があります。

「一番良い品質」=「ベストな品質」とすると、語弊がありますが、ある意味、楽(ラク)です。ですが、求められている品質を引き出して、これに合わせて商品を提案するという面倒をしていかないと、価格にみあった価値を提供できません。

機械翻訳では、この部分がますます重要になります。

ポストエディットのレベルによって制作コストに大きな差がでますし、出来上がった翻訳も大きく変わってくるからです。

 

ここで必要になってくるのが、ポストエディットのガイドラインです。ガイドラインがあれば、クライアントと合意した品質レベルを明確にし、そして、この品質レベルを具体的にポストエディターと共有することができます。

このガイドラインを作成するうえで、翻訳の国際団体であるTAUSのガイドラインが参考になります。TAUSのガイドラインでは品質レベルを2種類に分けています。大雑把なレベルでは、意味的に正しいことが求められます。【人間による翻訳と同水準の品質を実現するレベル】では、用語や書式の修正まで求めています。

 

ガイドラインでクライアントから求められるポストエディットの品質レベルを上手に共有し、ラクして「安くて」「高品質」ばかりを強調するライバルたちよりも、強い競争力をつけていきましょう。